医療機器の進歩は早く、検査、診断、治療に活かされている。
目に見えなかった症状や病気が目に見えるようになることは、治療を受ける側にとっても、治療する医療者側にとっても、喜ばしいことでもある。

耳鼻咽喉科に来院される患者様の中には、他の病院で「うつ病」と診断を受けておられる方も少なくない。
難聴、耳鳴り、めまいをはじめ、鼻づまり、後鼻漏、鼻やのどの違和感など。これらの症状は、不眠やうつ症状とも関連性がつよい。

さて、冒頭に書いたように、
うつ病を客観的に、見える化して診断できる方法に、光トポグラフィー検査がある。検査結果のグラフから、健常者パターン、うつ病パターンなどを解析して診断する。さらに、ストレス・うつ病の治療法の一つとして、TMS(経頭蓋磁気刺激)治療がある。薬を使わない うつの治療! ということもあり、注目されている。

当院耳鼻科を受診される方の中にも、実際に光トポグラフィー検査でうつ病と診断され、TMS治療を受けられた方からお話を聞く機会は少なくない。これらの検査・治療経験者からのお話だけで、すべてを評価することはできないが、さほどかんばしい話が聞こえてこない。

「さほど詳しい診察や問診などなく、検査パターンでうつ病と診断された」
「治療を受けたがさほど変化、効果がなかった」
「治療で効果がなくても、他には方法がないといわれた」

最後に、私の診察で「私は ほんとうにうつ病だったのでしょうか?」といわれた方もおられた……

今まで判断できなかった、見えなかった病気が、客観的な検査結果として診断できる意味は大きい。
その一方で、いくら機器診断が進歩しても、それを用いる医療者の役割が大きいことはいうまでもない。検査結果がすべてとばかりに、患者さんの訴えに耳を傾けることもなく、”機械的に” 病気を診断する姿勢。そこからはずれる患者さんの訴えを聞こうとしない危うさ。

これから到来する医療変革の中で、やはり機器による診断・治療がすべてではないことを、機器を使う私たち医療者が もっとも心しておく必要があると感じさせられる。機器が、AIが、データを蓄積してアップデートしていく以上に、日々、診察に来られる患者さんから、医療者が学んで、自身をアップデートしていかないと。

 

きたにし耳鼻咽喉科