医師となって30年。どの業界に負けず劣らず、医療の世界でも進化、進歩が目覚ましい。
30年もたてば当然かもしれないが、医師となってから学んできた病気は、診断も概念も変化している。経験してきた治療法も、今は昔。今では使わない治療法も少なくない。

DX デジタルトランスフォーメーション。この言葉自体も、もう古臭く感じるほどに、科学情報技術の発展変化のスピードは速く、医療DXもどんどんと進んでいる。

今まで知らなかった疾患名も増え、特に開業医としては、新しい疾患の診断や治療については、日々学んでいく必要がある。どういった病気を想定して、診断して、治療するか さらにはそれを少しでも早くとらえるかが、症状を抱えている方々にとっては重要になる。

ケース1。
めまい、ふらつきがあり、むかつきも止まらない。内科に受診しても、抗めまい剤、制吐剤が処方されるだけで、耳鼻科にも診てもらってください、とのこと。他の耳鼻科に行かれると、前庭神経炎という診断で、やはり経過観察に。あまりに、むかつきもつよく、ご相談があった。さっそく、頭部の画像診断を受けていただくと、そこにうつっていたのは
「小脳出血」
患者さんは、リハビリをして、日常生活には復帰できたが、もっと診断が遅れていたら、と思うとおそろしい。

ケース2。
数十年前からの鼻づまり。内科や耳鼻科に通院して薬をもらっていたが、いっこうによくならない。点鼻薬や鼻炎薬が、何年にもわたって処方され続けていた。
あまりに鼻づまりが治らないので、診察にこられた。鼻をみるだけですぐにわかるほど、鼻ポリープでつまっている。CT、血液検査などにより、得られた診断は、
「好酸球性副鼻腔炎」
その診断がつけば、いわば 不必要な薬の治療はやめられるし、長期間の不必要な通院などから解放される。この疾患は、今でこそ知られるようになってはきているものの、未だに耳鼻科医でも、その診断がつかず、経過を見続けている場合がある。

ケース3。
何年もからの聞こえにくさがあった。耳鼻科に受診、通院していたが、気にし過ぎだ、聞こえにくいなら補聴器をつけるしかない、といわれていた。数件の耳鼻科で同様の診断であったため、何か違うと思った本人、ご家族が、当院を受診された。
鼓膜正常、さらに聴力検査上もほぼ問題なし。よくよくお話をうかがうと、一対一の会話は比較的問題はないが、周囲の環境や雑音、早口で言われたりすると、聞き取れない場面があるという。
「APD 聴覚情報処理障害」
もしかすると、耳鼻科医でもあまり知識や経験がない疾患かもしれないが、多少でも、その状況を問診で聞き取る努力をすれば、少なくとも、やみくもに補聴器をすすめるような対処法にならないはず。今回も、まさにそんなケースであった。

最近は、WEB問診票も普及しはじめ、オンライン診療もさかんに。当院でもオンライン診療を導入はしているが、やはり患者さんの訴えを真摯に受け止め、聞き取り、大切な情報とそうでない情報を判別する。また、いくら診察の方法がデジタル化していっても、それを診て、判断する医師側のアップデートがなければ、かえって、初めの思い込み診断がくつがえる機会を逸することにもつながる怖さがある。


医療DXがどの方向に進み、ヒトとして医師がそれにどう向き合うのかが、大切だと感じさせられます。

 

※拙書『慢性副鼻腔炎を自分で治す』(マキノ出版)の過去の記事は→こちら

※以下 当院での診察予約です。

通常の来院予約は→こちら

オンライン診療(自由診療・初再診可)は→こちら

オンライン診療(健康保険・再診のみ)は→こちら

 

 

きたにし耳鼻咽喉科